ソーラークッカーは、電気やガスを使わずに太陽の熱を利用して料理ができる調理道具です。仕組みはシンプルで、段ボールやアルミ箔など身近な材料で作ることができ、実際に途上国や難民キャンプで暮らす人たちに活用されています。
ソーラークッカーの設計・開発と普及に取り組む足利工業大学・中條祐一教授に普及活動についてお話を伺いました。
中條教授がソーラークッカーの普及に取り組んでいるエチオピアは、隣国から流入する難民が増え続けており、深刻な燃料(薪)不足に陥っています。住民による伐採で森林率※はボーダーラインの10%まで落ち込んでいて、一般的にこのボーダーラインを割り込むと急速に森林率は下がり、土地は荒れ、やがて砂漠になってしまうと言われているそうです。しかし、現地の人たちにとっては毎日の食事を作るために薪は欠かせません。
※森林率:国土に占める森林の割合。
中條教授は、現地の人たちに使いやすいソーラークッカーの開発が、燃料不足の解消と森林の保全に役立つと考えています。
ただ、途上国、難民キャンプとひと口で言っても、そこに暮らす人たちの生活様式や食文化、生活レベルはまちまちであるため、現地の人たちに実際にソーラークッカーを使ってもらい、使い勝手や要望を取り入れ、各地域にあったソーラークッカーを設計・開発しています。また、普及にはソーラークッカーを提供するだけでなく、現地で製作できることも大事なポイントだそうです。
エチオピアの隣国・ケニアでは、すでにソーラークッカーの製作過程の一部が現地でできるようになっており、女性たちが行商で普及を進めています。また、ソーラークッカーが女性たちの生活を支える収入源にもなっています。
さて、日本ではと言いますと、小学校の理科教材やアウトドアで料理を楽しむために使われることが多いそうですが、中條教授は「ソーラークッカーは防災用具としても役立つ」と言います。万が一、ガスや電気がストップしても、ソーラークッカーがあれば火を使わずに安全に温かい食事を手にすることができます。もっと言ってしまえば、ソーラークッカーがなくても、その仕組みを知っていれば、いざという時に手近にあるもので工夫すればソーラークッカーを作ることができるそうです。
ここで、ソーラークッカーの仕組みをご紹介します。ソーラークッカーは、熱の3つの移動形態(熱伝導・ふく射・対流)を利用して、鍋の食材に熱を届けています。
ソーラークッカーに降り注ぐ太陽光は反射板で収束され、鍋に当たった光は吸収されて熱に代わり、鍋を伝わって食材に届きます。また、温まった鍋の内側から食材に向かってふく射される熱もあります。そして、鍋のまわりの温まった空気が鍋全体を保温します。
太陽の熱をふく射させて鍋に届ける反射板にはガラスや鏡に加え、アルミ箔も材料として使われています。アルミ箔は太陽光の反射率が高く効率的に熱を鍋に伝えられるので、太陽光に温められても熱くならず表面がひんやりしたままです。調理中に反射板に触れてもやけどの心配がありません。また、曲げたり折ったりできる素材なので、折りたたんで持ち運びができるタイプにも適しています。
実は、日差しの強さは夏も冬も変わらないため、季節を問わずに調理ができます。冬は気温が低いので夏と比べると時間がかかりますが、写真のような簡単なパネル型でもご飯2合を炊くのに夏は1時間、冬は1時間30分くらいでホカホカのご飯が出来上がるそうです。
ちなみに、中條教授の集計データでは日本でもソーラークッキングができる日照時間を確保できる日が平均して年間250日以上あるということで1年のうちの約7割は調理が可能ということになりますね。
中條教授におすすめの料理を聞いたところ、本場フィンランドでは暖炉でコトコトじっくり作る「フィンランドシチュー」とのこと。肉と水と塩・胡椒(あればオールスパイス)を鍋に入れて、ソーラークッカーに半日セットしておけば、火(日差し)加減の調節も不要で、本格シチューを楽しめるそうです。
ソーラークッカーはインターネット通販などで販売されています。また、このホームページでも作り方を紹介(こちら)していますので、ソーラークッカーでクッキングを楽しんでみたい方はチャレンジしてはいかがでしょう。
足利工業大学
工学部創生工学科
自然エネルギー・環境学系主任教授
工学部機械工学科教授 中條祐一さん