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アルツハイマー病研究の最新動向について (第2回)
国立精神・神経センター 神経研究所 疾病研究第6部部長・田平 武氏講演より
アルツハイマー病とは
 それではアルツハイマー病とはどういうものか,というお話をいたします。
 今,申しましたようにアルツハイマー病は脳が全体的に障害される,全体的な病気である。下は正常の74才で亡くなられた方の脳で,脳の病気は一切なかった方です。それに対して上はアルツハイマー病でなくなられた方で80才弱の方です。このように,脳が萎縮して,萎縮したために脳のしわが深くなり,溝が深くなって,しわがたくさんある,という状況です(図1)。今いいましたように認識の中枢は頭頂葉にある,視覚の中枢は後頭葉にあります,それから側頭葉は記憶を,それから判断するというのが前頭葉,というふうに大体大きく役割分担というのがあります。
 今,これを縦に切って前の方から見てみると(図2),コントロールは下です。この外側のちょっと色の濃いところが灰白質と言って,神経細胞がいっぱいつまっています。脳で一番大事な神経細胞体が存在しているわけです。これが側頭葉でその内側に,巻き込むようにしてあるのが海馬といって記憶の最も大事なところです。それからこういうところは基底核といって運動の調節を司るところです。パーキンソン病というのはこういうところの症状を云います。
 アルツハイマー病というのは海馬から大脳の灰白質にある神経細胞が障害されて死んでいくものですから脳が萎縮していくというわけです。ここに脳室という部屋がありまして,脳室には水がたまっています。この脳が萎縮する結果,脳室はこのように拡大していく。特に大事なのはここの部分でして,海馬がもうここはほとんど見られない,これだけ本来あるべきものがペらんペらんになっているのです。そこにある,本来脳室というのは見えないぐらい小さいものなんですが,こんなに開いている。

図1 アルツハイマー病の脳(上)と正常コントロールの脳(下)
図1  アルツハイマー病の脳(上)と
正常コントロールの脳(下)
(国療犀潟病院巻淵隆夫先生提供)


図2 アルツハイマー病(上)の脳の断面
図2  アルツハイマー病(上)の脳の断面に海馬の萎縮が見られ,脳室が拡大している。下は正常対象
(国療犀潟病院巻淵隆夫先生提供)


アルツハイマー病の診断
 従ってアルツハイマー病の患者さんでは,呆けがあるということがまず第一条件になります。そして先程いいましたように一切の意識障害がないということです。アルツハイマー病を臨床的に確定するには他の病気を除外しないと出来ないのです。従ってこういう病気ではない,こういう病気でもない,とやっていって残ったものがアルツハイマー病であろう,ということになるわけです。  現在では,それに画像が利用できまして,MRI(核磁気共鳴画像)といいますが,これでみますと,海馬の萎縮あるいは大脳の萎縮というのがわかる。特に海馬のそばの脳室の拡大はアルツハイマー病の診断に有用であると言われています。そのほか血液を採っても確定診断は出来ませんし,脳脊髄液をとっても確定診断は出来ません。ただ,最近では後で述べますがアミロイドですとか,神経原線維変化,そういったアルツハイマー病に特徴的な化学物質が溶けて出て髄液,脳脊髄液の中に存在してます。それを測ることによって補助診断がある程度可能になるであろうという状況です。



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