関連講演録

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日本人のアルミニウム摂取状況と最近の研究 (第1回)
昭和女子大学助教授・福島正子氏講演より
消化に欠かせない酵素の役割
 私たち人間の体内では、食べ物は口から入り、食道、胃を通って、小腸、つまり十二指腸、空腸、回腸に運ばれる。そこから大腸を通過し、吸収されなかったものは排泄される。食物繊維などは、消化酵素の影響を受けずに排泄される。
 pHで見ると、口の中はだいたい中性だが、胃に入ると通常はpH1〜3に急激に変化し、胃を10cmほど出ると今度は一気にpH7強の弱アルカリ性に変化する。たとえばでんぷんの場合、まず口の中でα-アミラーゼにより分解され、リミットデキストリンやマルトトリオース、マルトースといった段階まで、一部分が消化される。次に、胃では分解されず、残りは膵臓で分解される。
 主にアルコール、医薬品の一部などは胃でダイレクトに吸収されるといわれる。その他の食物は、大部分が小腸の十二指腸、空腸、回腸のいずれかに分散されて吸収されていく。鉄やカルシウムなどの金属イオンも同じである。
 小腸では、膜消化といって、上皮細胞で酵素によって分解され、膜吸収される【図1】。小腸には絨毛があり、その先端からイソマルターゼ、マルターゼなどの酵素が出て、最終的に単糖に分解される。スクロース(ショ糖)の場合、絨毛の先端でスクラーゼという酵素が出て、吸収する直前にグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)に分解される。グルコースはG担体と呼ばれるもので運ばれ、細胞内に入る。フルクトースは、F担体で別になっている。

【図1】主な消化酵素とその作用
主な消化酵素とその作用

小腸での栄養吸収のプロセス
 小腸の栄養吸収細胞は図【図2】のように、担体路、脂質路、水路、タイトジャンクションに分かれている。たとえば鉄は、鉄担体を持っており、水に可溶なものはこの担体路を経由して細胞内に入っていく。担体路には、炭素が3個以下の低分子のものが入り、特殊な担体を持つものでは分子量100〜200ぐらいのものが入っていく。水で溶けるものは毛細血管を通って体内に入るが、ここに脂質路があり、膵液でミセル状になった脂質はここを由してリンパ管に入っていく。タイトジャンクションとは、小腸絨毛の栄養吸収細胞と細胞間の特殊な隙間のことであり、ここに比較的大きい分子量のものが入っていくのではないかと考えられているが、現在もまだ研究されている。
 小腸の上皮はほとんど絨毛で覆われており、それぞれの先端に微絨毛、刷子縁がある。鉄などはこの刷子縁に入り込んで取り込まれる。絨毛のまわりには細動脈、細静脈、リンパ管があり、吸収されたものはここから運ばれて体内の細胞へと移動していく。
 たとえばマルトース(麦芽糖)やスクロースがやってくると、絨毛の先端からマルターゼやスクラーゼの消化酵素が噴出し、これを一気に単糖にしてその瞬間に吸収していく。小腸には大腸にいるような細菌は非常に少ないといわれるが、それは細菌が利用しにくい状態を保ち吸収直前に分解されるからである。 必須元素であることの証明は、歴史的には鉄とヨウ素が古く、その後が銅、マンガンなどだった。カドミウムなどが必須元素の可能性ありと台頭してきたのは1970年代以降で、これは測定器がよくなったことや、環境からのコンタミネーション(汚染)が入らなくなったことなどがその理由に挙げられる。

【図2】小腸壁における吸収経路の種類とその模式図
小腸壁における吸収経路の種類とその模式図

注目されるタイトジャンクション
 絨毛の中にある栄養吸収細胞はたいへん寿命が短い細胞で、だいたい24時間で死んでいく。1日約150gの細胞がはがれて腸管に移されるが、そのうちの一部は再び蛋白質として吸収される。
 脂肪球はリンパ管に入っていく。細胞と細胞の間の、通常は閉じているはずの隙間がタイトジャンクションで、ここにはナトリウムや水が浸透圧の関係で入っていくと考えられている。しかし、死滅した細胞はここの隙間を通ってはがされ、腸管の内部に押し出される。このタイトジャンクションが、病気の人や栄養状態の悪い人では拡大しているのではないかと推測され、現在も研究が進められている。細胞内には低分子でないと入らないはずなのに、比較的大きいペプチドなどが通過していることから、意外にいろいろな物質が入っているのではないかと考えられている【図3】。詳しいことはまだわかっていないが、もしここが広がるのならアルミニウムなどの金属も、大きい錯体のまま通過するかもしれないと考えられる。
 蛋白質や脂質、糖質などの吸収経路は、すでに研究が進んでいるが、鉄などではまだはっきりわからない部分もある。アルミニウムは、鉄の遷移元素担体路を経由して細胞内に入ると考えられているが、それもまだ結論が出てはいない。
(次号へ続く)


【図3】Na+の細胞側路による吸収
Na+の細胞側路による吸収

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