関連講演録

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生体微量元素の役割について (第1回)
順天堂大学助教授・千葉百子氏講演より
生体と地球を構成する元素
 人間の体はどのような元素でできているのだろうか。1972(昭和47)年にIAEA(国際原子力機関)は、標準人間(男性、体重70kg)の体内に存在する36元素の量【表1】を発表しており、これが現在のスタンダードとなっている。その後に測定法が進み、現在ならさらにいろいろな元素が測定できるのではないかと思われる。アルミニウムは21番目に多く、体重に対する割合は0.00009%である。分析化学では、1%以上あるものを主成分、1から0.01%(100ppm)を少量成分、0.01%以下を微量成分と呼んでいる。従来はこのレベルを微量分析と呼んでいたが、最近は測定器が進歩し、1ppm以下を超微量分析、超微量元素ということもある。
 地球の元素の組成では、クラーク数という考え方がある。これは、地球の表面をりんごの皮をむくように1マイルの厚さにむき、それをミキサーにかけると、どういう成分の順番になるかを表したものだ。いちばん多いのが酸素、次がケイ素、3番目がアルミニウムである。環境測定の際にアルミニウムとケイ素が多ければ、それは土壌由来の汚染であると判断することが多いのはそのためである。

【表1】標準人間(体重70kg)の元素組成 (IAEA資料より)
標準人間(体重70kg)の元素組成

必須元素の歴史
 人体内に多い元素である酸素、水素、炭素、窒素の4つを合わせると約97%である【表2】。さらにリン、イオウ、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩素、ここまでが必須常量元素と呼ばれる11元素で、全部合わせると99.3%になる。残りの必須微量元素を全部合わせても0.7%以下で、これには鉄、亜鉛、銅、マンガン、セレン、モリブデン、コバルト、ヨウ素、クロムの9つがある。必須常量元素と必須微量元素の20元素が人体に必須であることは、コンセンサスが得られている。これに対し、必須かどうか議論されている元素には、カドミウム、リチウム、ゲルマニウム、臭素、鉛、アルミニウムがある。
 必須元素であることの証明は、歴史的には鉄とヨウ素が古く、その後が銅、マンガンなどだった。カドミウムなどが必須元素の可能性ありと台頭してきたのは1970年代以降で、これは測定器がよくなったことや、環境からのコンタミネーション(汚染)が入らなくなったことなどがその理由に挙げられる。

【表2】生体内の必須元素
生体内の必須元素

必須元素と非必須元素
 それでは必須元素の「必須」とはどういうことだろうか。このグラフ【図1】のように、横軸に元素濃度、縦軸に生存率をとる。必須元素が欠乏すると、最初は欠乏症状が起き、それが長く続くと死亡する。多すぎると中毒を起こし、死亡する。ちょうどいい至適領域は、元素によって狭いもの、広いものがある。これに対し必須元素でないものは、欠乏しても生存率には関係ないが、多すぎると中毒を起こし死亡してしまう。
 たとえばセレンは必須元素だが、至適範囲の幅が非常に狭い。アメリカではスーパーマーケットでセレンタブレットを売っており、自由に買って飲むことができる。そこで、自分が考えているより多い量のセレンを飲んでしまい、髪の毛が抜けたり、爪がガタガタになったりして、病院でセレン中毒と診断された例があった。セレンの欠乏症や中毒は家畜にもある。中国では、土壌中のセレン濃度が高い所、低い所があり、欠乏症、過剰症の両方が報告されている。

【図1】必須元素と非必須元素の生体内存在量と影響の関係
必須元素と非必須元素の生体内存在量と影響の関係

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